第二回目は8月19日。毎度同じコメントで恐縮ですが、猛暑の中での練習となりました。大学は再開発が一層進み、ほぼ完成した新1号館の存在感によって千川通りからの風景も一変。キャンパスの中は緑が美しく…って、写真だけ見ているとまるでリゾート地の様にも見えますが、実際は外気温35℃の世界の訳です。
会場は前回と同じ10号館3階ですが、残念ながらホールは予約の関係で使えず、その他の3部屋、及び部室での練習です。参加者はお盆休みと言う事も有って、帰省中のメンバーがおられたりして少々少ない20数名。その代りと言う訳ではありませんが、中国駐在中の八木さんが任地への帰路、成田空港に向かう途中、練習に立ち寄って下さいました。暑い最中、重い荷物を転がしてご苦労様です。
さてさて、前回は第1部からの3曲を練習した訳でしたが、今回は第2部からの3曲となります。そこで理解を深めるために「メサイア」全体の構成がどうなっているのか、簡単に見てみたいと思います。
「メサイア」は3部から構成されていて、それぞれの概要は以下の通りとなっています(Wikipediaより)。因みに「メシア」とはヘブライ語の発音を日本語に音写したものですが、「メサイア」はヘブライ語→英語→日本語に音写したもので、意味は同様に「救世主」=「キリスト」です。「キリスト」はギリシア語起源で「救世主」を意味する言葉だそうです。
第1部: メシア到来の預言と誕生、メシアの宣教
第2部: メシアの受難と復活、メシアの教えの伝搬
第3部: メシアのもたらした救い〜永遠のいのち
前回の第1部の3曲がキリスト生誕までの話し、つまりクリスマス物語であったのに対して、今回練習する21番〜23番はそれ以降の「受難」を現した部分ですので、必然的に厳しく暗い曲調となります。唯一、23番はF dur(ヘ長調)で一見明るい曲調に聞こえますが、76小節以降のF moll(ヘ短調)の暗く重々しい曲調の部分がこの曲の本質的部分と考えられます。
21番. Surely He hath borne our griefs(彼が担ったのは私たちの病)
22番. And with His stripes we are healed(彼の受けた傷によって私たちは癒された)
23番. All we like sheep (私たちは羊の群れのように)
歌詞は全てイザヤ書53章4, 5, 6の連続となりますので、この3曲がひと塊となっているものと解釈できます。
21番. Surely He hath borne our griefs
曲は冒頭から強烈な付点のリズムで開始されます。楽譜は16分休符+16分音符と記載されてますが、楽譜下段の注意書き通り、バロック時代の慣行として付点(付点16分休符+32分音符)のリズムでの演奏となり、一層厳しさが際立つこととなります。
歌詞ですが…。
Surely, He hath borne our griefs and carried our sorrows,
He was wounded for our transgressions, He was bruised for our iniquities; the chastisement of our peace was upon Him.
[発音練習]
前回の11番でのご説明と同様となりますが、大文字で始まる「He」「Him」とはキリストを現します。
griefs(深い悲しみ)は辞書によるとuncountable(不可算名詞)ですので、sを付けないのが正しい文法だと思います。何故、sを付けるのかは解りませんが、想像するにそれほどに深い悲しみが沢山あったと言う事かも知れません。hathはhas。transgressionsは宗教・道徳上の罪。bruiseは傷つける。iniquitiesは不正、非道、邪悪。chastisementは折檻、体罰。同じような意味の単語が複数回繰り返されます。
「確かに、彼(キリスト)は我々の数多くの深い悲しみを負われ、我々の悲痛を担われた。」
「彼は我々の罪の為に傷付けられ、我々の不正の為に傷付けられ、彼に対する折檻の故を以て我々は平和を与えられたのだ。」
キリスト教の予備知識が無いと何を言っているのだか良く解りませんが、キリストは宗教的弾圧の結果、無実の罪を着せられて鞭を打たれてゴルゴダの丘で十字架にかけられて処刑されますが、その際にキリストが傷を受けるのと反比例の関係で人々の病気が治ったり、苦しみが取り除かれると言う奇跡が起きたと言う内容を、映画で見たような気がします。
この曲の長さは26小節とコンパクトですが、全パートが縦の線を合せたホモフォニックの形と、先ほど記載した強烈な付点のリズムと併せ、強いインパクトを感じさせます。途中、13小節から18小節の間は穏やかなリズムとなりますが、19小節から再び付点のリズムが回帰します。
英語の発音をカタカナで説明するのは非常に難しいので前回は割愛したのですが、今回は幾つかの注意点を簡単に記載しておきます。まず、「メサイア」は18世紀の英国で作曲された訳で(初演はアイルランドのダブリンですが)、基本的に古典的なBritish Englishの発音に統一するのが一番素直です。ですので、andは「アンドゥ」。「ア」の発音記号は小文字のeが上下ひっくり返ったやつ。現代のAmerican Englishですと「エンドゥ」或いは「エァンドゥ」と言った発音になりますが、今回は「アンドゥ」でお願いします。wasは「ウォズ」に近い「ワズ」。発音記号で言うとcがひっくり返ったやつです。Britishと言う訳でもありませんが、woundedのwouは深い響きの「ウ」。あと、他の部分でも共通ですが、過去形、過去分詞の際のedの発音。この曲ですとbruisedが当てはまります。原形はbruise≒ブルーズです。ここでは受動態になってedが付きますので、普通なら「ブルーズドゥ」(母音uのみの1音節)と言いたくなるところですが、ここでは「ブルーゼドゥ」(母音uとeの2音節)でお願いします。例えば16小節の部分ですが、各パートともedに4分音符、もしくは2分音符が割り振られております。ここでは前の音符に割り振られたbruisの末尾のsをedにリエゾンする形で、「ゼドゥ」と発音して下さい。つまりこの4分音符、もしくは2分音符は母音「エ」で歌う事になります。
22番. And with His stripes we are healed
この曲は前曲21番から連続して演奏される事になると思います。で、前曲がホモフォニックだったのに対して、この曲はポリフォニックの代表的な技法であるフーガ形式(正確にはフゲッタ)で書かれており、前曲とのコントラストが見事です。
冒頭にご説明した通り、歌詞もイザヤ書53章からの連続した非常に短い文言となります。
And with His stripes we are healed.
[発音練習]
「そして彼(キリスト)の(鞭打ちによる)縞模様(の傷)によって我々は癒された。」
冒頭ソプラノに現れる音型(C→As→Des→E)は「十字架の音型」と言われます。特にDes→Eの減7度(9個の半音)の飛降りが強烈な印象を与えます。それに続く(F→G→As→B→C)はなだらかな上行音型で、歌詞we are healed(我々は癒された)と符合します。ここまでの音型はアルト→テノール→バスに順次引き継がれて行きます。但し、ソプラノとテノールは同じF moll(ヘ短調)ですが、アルトとバスは5度上(=4度下)のC moll(ハ短調)となりますので要注意です。
先ほど記載した通り、この曲はポリフォニックが主体的でして、4パートが同時に同じ歌詞を同じリズムで歌うホモフォニックの部分は最後の3小節のみとなります。また各パートに何度か休みが有ります。このあたりも要注意でして、一度、自分の居場所を見失うと曲の中で迷子になってしまいます。幸いに伴奏が全パートをカバーしてくれてますので、そういう時は冷静になって、若月先生に頼りましょう。
英語の発音ですが、ここでの注意点はhealedです。上記のbruisedの際と同様に、「ヒールドゥ」(1音節)では無く「ヒーレドゥ」(2音節)とします。で、hea、つまり母音「イ」——-で延々と歌って、最後にled「レドゥ」と歌う訳で、これまたbruisedと同じ要領です。
23番. All we like sheep
曲は一転して明るいF dur(ヘ長調)の響きとなります。でもこの明るさは「道に迷う愚かな羊=我々」を揶揄している訳で、心底楽しく歌うべき曲では無いと思います。冒頭に記載しましたように、76小節以降のF moll(ヘ短調)の暗い部分がこの曲の本質でしょう。
All we like sheep have gone astray, we have turned every one to his own way; and the Lord hath laid on Him the iniquity of us all.
[発音練習]
「我々全ては羊の様に道に迷ってしまった。我々はてんでんバラバラに己自身の道に曲がりこんでしまった。そして主は我々全ての罪悪を彼(キリスト)の上に置かれた。」
「道に迷う」とは物理的に道を間違えたと言う意味では無く、キリストの教えを見失って、誤った宗教観、倫理観、価値観に走ってしまったと言う精神世界の話しでしょう。この曲にもメリスマが登場します。これは道に迷って彷徨う様を表現している様にも想像できますし、あちらこちらでたむろして意味の無い噂話や不毛な論議を行っているようにも聞こえたりします。
上記の「76小節以降」の歌詞はand the Lord hath laid on Him the iniquity of us allと言う重たい内容ですので、音楽と文学が見事に整合しているのが解ります。
因みにこの「シメ」の部分はF dur(ヘ長調)の同主調であるF moll(ヘ短調)となり、21番、22番の調性と一致します。つまり21番のF mollで始まったこれら3曲は、同じF mollで締めくくられると言う構造が見て取れる訳です。
英語の発音ですが、この曲では頻繁に出て来るturnedが要注意です。現代英語では「ターンドゥ」(母音uのみの1音節)となりますが、ここでは「ターネドゥ」(母音uとeの2音節)となります。例えば12小節のテノールは一拍目の4分音符が「ター」で、次の4分音符が「ネドゥ」となります。勿論「ドゥ」はカタカナだとこう書くしかありませんが、無声音(母音無し)です。前曲のhealedと同様です。
さて、次回は9月2日(日)13:00〜17:00です。初めの1時間をパート練習とし、続く3時間はいよいよ志村先生ご指導による全体練習となります。曲は前回パート練習した下記の3曲となります。
4番. And the glory of the Lord(主の栄光がこうして現れるのを)
8番. O thou that tellest good tidings to Zion(良い知らせをシオンに伝える者よ)
11番. For unto us a Child is born(ひとりの嬰児が私たちのために生まれた)
練習場所は大講堂と10号館3階の練習室1〜3。集合は多分、大講堂になると思います。
まだ当分この猛暑は続くものと思われますが、皆様、暑さに負けず、奮ってご参加下さい!
川島
[編集後記]
歌詞の発音を練習できるサイトを見つけましたので、前回より歌詞の下にリンクを貼りましたが「現代イギリス英語」とのことです。その点ご注意ください。
http://homepage3.nifty.com/oma/messiah/hatsuon.html
それにしてもメサイアは古くから世界中で歌われているだけありますね。iTunes StoreやYou Tubeで「Messiah」で検索すると大量にヒットするので参考になる曲を直接聴くことができます。
また聖書も世界最大のベストセラーですから「聖書 PDF」で検索すると、直接読むことができるのですね。
便利な世の中になりました。
TongSing