ヘンデルクランツ通信 No7


前回、つまり9月16日の練習はご承知の通りOB総会との同日開催となった訳でありまして、これに関しましては既に15代の須田さんから「リーデルけん聞録」として投稿されております。これを良い事に、私としましては1回サボらせて頂いた次第です。

さて今回、9月30日ですが、折から台風17号の接近が予報される中での開催となりました。バスのパートリーダーである相原さんは勤務先が静岡ですので、西から接近する台風に突っ込んで行く様な形になります。従いまして夕刻まで東京に留まるのは自殺行為。昼前後に静岡に向かって頂く事とし、空いたバスパトリの穴は私が代行として埋めさせて頂く。更に私の穴は小林さんに埋めて頂くと言う訳で、三角トレードであります。

本日は8月19日以来、3回目のパート練習でありまして、「メサイア」抜粋8曲の譜読みは本日で完了させる計画です。
曲目は#39”Hallelujah”と#47”Worthy is the Lamb”の2曲。2曲とは申しましても後者#47”Worthy is the Lamb”は2曲から3曲分の分量が有りますので楽じゃーありません。しかもこの2曲は”Hallelujah”が第2部の締め。”Worthy is the Lamb”が全曲の締めに当たる重要な曲目に当たります。

8月19日のヘンデルクランツ通信で「メサイア」の全体の構成を書きましたが、あまりにも簡単でしたので、岡部先生、志村美土里先生に歌って頂くソロの曲を含め、45定で取り上げる曲の概要を以下の通りまとめてみました。ご理解を深めて頂く為の一助となれば幸いです。

※スペースの関係から縦長の箇条書きとなります。一覧表(表型式)での表示をご希望でしたら、こちらをクリックした後、下にスクロールされ続きをお読みください。

<第一部>到来の預言と誕生、宣教
#1 Symphony ピアノ

#2  Comfort ye my people テノールソロ
出典:イザヤ書40章1-3節(旧約聖書)
内容:キリスト(=メサイア)誕生の預言

#3  Every valley shall be exalted テノールソロ
出典:イザヤ書40章4節(旧約聖書)
内容:キリストを迎える準備として地形を整える話し

#4  And the glory of the Lord 合唱
出典:イザヤ書40章5節(旧約聖書)
内容:主の栄光が明らかになるとの預言

Recitative Behold, a virgin shall conceive アルトソロ
出典:イザヤ書7章14節(旧約聖書)マタイ伝1章23節(新約聖書)
内容:受胎告知

#8  O thou that tellest good tidings to Zion アルトソロ→合唱
出典:イザヤ書40章:9節,60章:1節
内容:聖母マリア受胎の喜ばしい知らせとその伝搬

#11 For unto us a Child is born 合唱
出典:イザヤ書9章6節(旧約聖書)
内容:キリスト生誕の喜び

#16 Rejoice greatly, O daughter of Zion ソプラノソロ
出典:ゼカリア書9章9-10節(旧約聖書)
内容:キリスト生誕の知らせのシオンへの伝搬

<第二部>受難と復活、教えの伝搬
#21 Surely he has borne our griefs 合唱
出典:イザヤ書53章4-5節(旧約聖書)
内容:キリストの受難とそれによる人々の救い

#22 And with his stripes we are healed 合唱
出典:イザヤ書53章5節(旧約聖書)
内容:同上

#23 All we like sheep have gone astray 合唱
出典:イザヤ書53章6節(旧約聖書)
内容:羊の様に惑う人々の愚かさ

Recitative He that dwelleth in heaven テノールソロ
出典:詩編2章4節(旧約聖書)
内容:天上の主の(反乱を起こした地上の王達への)嘲り

#38 Thou shalt break them テノールソロ
内容:焼き物を鉄の杖で砕くように(反乱者を)打ち砕く

#39 Hallelujah 合唱
出典:黙示録19章6節他(新約聖書)
内容:反乱を平定した後の主の栄光への賛美

<第三部>救いと永遠の命
#40 I know that my Redeemer liveth ソプラノソロ
出典:ヨブ記19章25-26節(旧約聖書)コリントの信徒への手紙一15章20節
内容:復活への信仰

#47 Worthy is the Lamb 合唱
出典:黙示録5章12-14節(新約聖書)
内容:屠られた子羊(受難したキリスト)への賛美

メサイアのテキストはチャールズ・ジェネンズ Charles Jennens (1700-73)
が旧約聖書、並びに新約聖書からストーリー性に配慮しながら精選した聖句
をまとめたもので、流れとしては、

(1)キリスト降誕の預言

(2)受胎告知と降誕

(3)キリストに対する迫害(受難)と死

(4)キリストの復活

(5)教えの伝搬

(6)地上の王達の反乱

(7)平定と神の国の到来

(8)復活への信仰と死の克服

となります。

第一部は既に述べました通りキリスト降誕の物語です。まさにクリスマスの時期に相応しい内容の美しい楽曲が並びます。

ドラマチックなのは第二部でして、(3)から(7)がこれに当たります。今回、志村先生が精選された楽曲の中には残念ながら(4)から(6)にかけてのエッセンスが有りませんので、#23”All we like sheep”の次の曲がテノールのレシタティーヴォ”He that dwelleth in heaven”と#38”Thou shalt break them”となりますが、本当はこの間に(4)から(6)のドラマが有ると言う事です。つまり復活したキリストが教えを広め、人々に救いを与えるのですが、このような新興宗教の台頭を良しとしない地上の王達、たぶんキリスト教化される前のローマ帝国皇帝、例えばネロとかの事だと思いますが、彼らが反乱を起こす(史実ではキリスト教徒への弾圧を行う)。これに対して「チャンチャラ可笑しい!」てな具合に「天上に住まわれる彼」つまりキリスト=メサイアは鉄の杖で焼き物の壺をぶっ壊すみたいに王達をやっつける!と言う流れになります。岡部先生が歌われるのは、そう言った内容の曲です。格好良いですね。で、それを受けて合唱が万歳!やったー!って高らかに歌うのが今回練習する#39”Hallelujah”てなアンバイです。

続く第三部は物語と言うよりも信仰の宣言とそれによる復活と死の克服と言った内容になります。#40の”I know that my Redeemer liveth”はソプラノソロの美しい楽曲でして、上記には書ききれませんでしたが、「ヨブ記」と「コリント人への第一の書簡15章20節」の二つのテキストから、全ての人々の復活に関する内容が採取されております。「メサイア」全曲では、この後に有名なバスのレシタティーヴォ#42”Behold, I tell you a mystery”と、それに続く#43”The trumpet shall sound”がありますが、今回は残念ながら割愛。この他にも#44の”O death, where is thy sting?”と言うアルトソロとテノールソロによる二重唱の名曲がありまして、この曲は実は一回、45定の候補曲に挙がったのですが、演奏時間の長さを勘案して志村先生が泣く泣く諦めたと言う裏話があります。で、全曲を締めくくるのが#47”Worthy is the Lamb”となります。

#39”Hallelujah”
この曲は超有名ですので、皆様も既にどこかで歌った経験が有る事と思います。Wikipediaには「日本の中学校において合唱コンクールや卒業式などで歌われることが多い。」と言った一文が見られますが、私の中学時代の音楽の恩師がこれを始めたうちの一人でした。最初の頃は「キリスト教の歌を卒業式で歌う妥当性があるのか?」と言った反対も強かったと記憶しております。

歌詞はと言いますと…

Hallelujah, for the Lord God Omnipotent reigneth,
The Kingdom of this world is become the Kingdom of our Lord, and of
His Christ, and He shall reign for ever and ever,
King of Kings, and Lord of Lords

ハレルヤ(主を褒め称えよ)、全能の神たる主の統治に。
この世のこの王国は我らが主とキリストの王国となる。そして彼は永遠に統治する。
王の中の王、主の中の主。

“Hallelujah”はヘブライ語起源の言葉で、ハレル(褒め称えよ)+ヤハ(エホバ=主)から成る単語だそうです。それを意識して下さいとの志村先生のコメントがありました。
発音としては、”reigneth”は「レイネス」。「ス」は勿論thの発音です。辞書には出てきませんね。”reign”で名詞の「治世、統治」となります。動詞としての意味もありますので、これを名詞化する為に”(n)eth≒ness”をくっつけたと言う事でしょうかね?良く解りませんが。”King of Kings, Lord of Lords”のそれぞれ後ろには複数形の “s”が付く事が重要と思います。

曲は3小節の前奏に続いて”Hallelujah”が全パート一斉に10回歌われます。縦の線が完全に一致したホモフォニーの力強い合唱です。この後も “for the Lord God Omnipotent reigneth”の歌詞を挟んで “Hallelujah”が繰り返されます。で、22小節からは一変してポリフォニーの世界に突入します。”for the Lord God Omnipotent reigneth”を歌う声部と、これに”Hallelujah”を合いの手の様に掛けるパートとが複雑に絡み合い、バロック合唱の醍醐味を楽しめる訳です。それで32小節でまた4声がホモフォニーへのまとまりを見せて”The Kingdom of this world”から縦の線を合せた力強い合唱になり、41小節からはフーガになります。その後はソプラノが天上の声を響かせ、下3声が “Hallelujah”と合いの手を入れる箇所、ポリフォニーに分かれる箇所、ホモフォニーにまとまる箇所と目まぐるしく変化し、最後、”Hallelujah”と力強く宣言して94小節のこの曲を締め括ります。同時に波乱に富んだ第二部の締め括りでもある訳です。多彩な要素を織込みながら冗長に走らず、大いに盛り上げてまとめ上げる手法は流石にヘンデルの面目躍如と言うところでしょう。

#47”Worthy is the Lamb that was slain”
#39”Hallelujah”で一旦全力を出し切った後、#40の”I know that my Redeemer liveth”は志村美土里先生のソプラノソロになりますので、この間にしっかり休憩をとってリカバーしましょう。予定ではステージ上に合唱メンバー用の椅子を設置し、エネルギー充填を行えるようにする作戦です。さて、この曲、ベーレンライターの楽譜では#47として一曲の扱いになっておりますが、298ページからの”Amen”の前では楽譜上でもダブルバーで明確に分割されており、小節番号もリセットされます。CDでもここでトラック番号を変えている演奏も結構あります。それとその前、290ページの24小節からの”Blessing and honour, glory and power be unto Him,”の前もダブルバーで区切られ、この前後で曲調が大きく変化しますので、ここまでの23小節からなる”Worthy is the Lamb”、次の48小節からなる”Blessing and honour, glory and power be unto Him,”、そして最後の88節に及ぶ”Amen”の3曲から構成されるとも考えられえる訳です。

Worthy is the Lamb that was slain and hath redeemed us to God by His
blood to receive power, and riches, and wisdom, and strength, and
honour, and glory, and blessing.
Blessing, and honour, glory, and power, be unto Him that sitteth
upon the throne, and unto the Lamb for ever and ever.
Amen.

屠られて(犠牲となって)その血によって我々を救った子羊(キリストのこと)こそ、力と、富と、叡智と、強さと、名誉と、栄光と、賞賛を受けるに値する。君主の地位についた彼(キリスト)と子羊に、賞賛と、名誉、栄光、そして権力が永遠に(続く)。
アーメン(然り≒斯く有らせ給え)。

“Hallelujah”と”Amen”はともにヘブライ語起源の言葉です。なぜここだけ英語に訳さないのか、不思議ですが、同じ現象が仏教にもあります。いわゆる「真言」と言う言葉で、例えば般若心経に出て来る「般若波羅蜜多」とか「羯諦羯諦波羅羯諦 波羅僧羯諦菩提薩婆訶」と言った言葉は古代サンスクリット語をそのまま中国語に音写したもので、膨大な経典を漢訳した玄奘三蔵もこの部分だけは漢訳しなかったのです。訳してしまうと正しい意味が伝わらないと言う事の様です。そう言えば我々も良く使う「旦那」(又は「檀那」)と言う言葉も古代サンスクリットの音写だそうで、「布施を行う人」と言う意味だそうです。そう言えば「臓器提供者」を意味する英語のDonor(ドナー)も旦那に似てますね。東に伝わったのがダンナで、西に伝わったのがドナーなのかな?以上、これは私の全くの思い付きですので信用しないで下さい。どなたかご存知の方、教えて下さいまし。「メサイア」とは何の関係も無い話で失礼致しました。

発音に就きましては、まず ショッパナの”Worthy”。「ワーズィー」「ワ」は「ヲ」との中間くらい。「ズィ」は”th”で濁る子音で、”mother”とか”that”の”th”と同じ発音です。”redeemed”。過去形の”ed”が付く際の発音に関しては既に何回か記載しておりますし、志村先生の練習の際にも同様のコメントを頂いている通り、ここでは「リディーメドゥ」と言う発音に統一して下さい。”riches”は「リッチーズ」。但し母音「イ」は日本語のそれより「エ」に近い発音です。”blessing”は「ブレッスィング」。「ブレッシング」では無いです。”ssi”は発音記号で言うと小さい”s”=「スィ」です。”she”とかの発音記号の長い”s”=「シ」ではありません。”sitteth”も同様に「スィーテス」。「シーテス」じゃありません。勿論語尾は”th”の発音です。”throne”は「スローン」これも”th”の発音で。いずれにしてもカタカナで英語の発音を表現するのは無理が有りますね。

既に申しました通り、この曲は3曲から構成されております。その始めの部分である”Worthy is the Lamb”はホモフォニーで作曲されていて、雄大なLargoのテンポで4声が縦の線をバシッと揃えた力強い合唱で開始されます。7小節からの”to receive power, and riches, and wisdom,…”ではテンポがAndanteにアップして、たたみかけるようなpower, riches, wisdom, strength, honour, glory, blessingと言う七つの単語が並びます。この「7」に宗教的な意味が有るようですが、詳しい事は存じません。この七つの重要な単語のアタマは全て4拍子の強拍に当たる1拍目と3拍目に来る事にも注意すべきでしょう。このAndanteの次に再びLargoに戻り、またAndanteになりますが、2度目のLargoとAndanteは1度目とは調性と音域が変っていて、2度目のAndante、つまり最後が一番盛り上がる設計になっているように思えます。

続く290ページからの”Blessing, …”からは打って変わってポリフォニーの世界。ここではカノンの手法が用いられます。いわゆる輪唱ですね。だた「しーずかーなこーはんーのもーりのーかげーからー……」みたいな呑気なカノンでは無くて、同度のカノン(完全な輪唱)とパート間で音域を変えたカノンが絡み合って合唱を構成します。言葉も早口が要求されますし、メリスマっぽい要素もあったりして、厄介ではありますが、なかなかスリリングで楽しい!先ほどの「七つの単語」のうち4つがここでも登場します。Blessingとhonourとgloryとpowerです。7が4に絞られた事に何か意味があるような気もしますが、私の知識ではギブアップです。曲は294ページの51小節からホモフォニーが支配的になり、最後、for ever and ever永遠に!と高らかに歌い上げて最後の”Amen”コーラスに移ります。

ここまで大いに盛り上がった曲調は298ページからの”Amen”コーラスで一旦鎮静化し、バスのパートソロによる雄大なフーガの主唱で厳かに開始されます。それをテノール、アルト、ソプラノが追いかける構造です。参考までにオーケストラ伴奏の場合、直前の”for ever and ever”で大活躍した金管とティンパニはしばし沈黙して、ファゴット付きの通奏低音だけになります。ですので合唱も雄大さを感じさせながらも、まずは崇高かつ静謐な感じで歌い始めると言う事になろうかと想像します。弦楽器による間奏を挟んで31小節から再び合唱が、今度は4声一斉に登場します。ここではオーケストラも金管とティンパニが加わりますので、合唱も力強く歌い上げる部分と思います。そのあとカノンの要素とフーガの要素を織込みながら、バロック合唱の神髄が展開されて行きます。一旦控えに回った金管とティンパニは75小節から再登場してクライマックスを形作ります。実に素晴らしい!但し、我が合唱に関してはフーガとかカノンとかのポリフォニックな部分ではパートごとに独立した動きをしますので、休符の後の出だしをチョンボったり、ロングトーンの拍数を数え間違えたりするとタイヘン!要注意です。他のパートとの関係性と言うか、掛け合いを良くアタマ…では無く、カラダに叩き込んでおく必要があろうかと思います。でもこれこそがバロック合唱の神髄。頑張って楽しみましょう。

 

さて、冒頭記載の通り、9月30日は台風17号襲来と言う事で、練習は予定より1時間早い15:00に終了。パート練習だけで全体練習は割愛しましたので、欲求不満に陥ったメンバーもおられるかも知れませんが、何分、相手が台風なもんですのでご勘弁下さい。実は練習の後、中国から一時帰国されている八木さんを囲んでちょっと一杯やりました。でも居酒屋では無くて喫茶店でです。当然ながら話題は尽きないのですが、雲行きを眺めつつ小1時間で切り上げ、各自、自宅への向かった次第です。山手線とかも70%程度の間引き運転とかでかなりの混雑でしたが、「帰宅難民」になることは無く、無事に自宅に戻れました。

次回は10月7日(日)13:00〜。場所はいつもの3階ホール、及び練習室1〜3となります。始めの1時間がパート練習。続いて志村先生ご指導による全体練習です。曲目は#47”Worthy is the Lamb”一曲となります。私が作成した練習計画表では勢い余って#39”Hallelujah”も練習するとの記載にしてしまいましたが、志村先生のお考えとしてはまず#47”Worthy is the Lamb”をマスターするとのお考えです。
それでは日曜日、またお会いしましょう!

川島